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ぺぺ ロメロ

先日投稿したアンドレス・セゴビアはもう亡くなっているので生演奏は聴くことができませんが、ペペ・ロメロは現役で最高峰のギタリストの一人です。
ギター一家で生まれ父親に手ほどきを受けたそうで、クラシックだけでなくスペイン人独特の節回しがすばらしいです。
以前、東京文化会館でのリサイタルで聴いた、フランシスコ・タレガの名曲グラン・ホタは、その曲を弾くほかの誰とも違って独特な美しさを奏でていました。長い変奏曲ですが、始めから終わりまでさまざまな変化を楽しませてくれました。その中ではちょっとした編曲もしていたようでした。
聞いた話ですが、名器を含めたものすごい数のギターコレクションをしているそうです。
そのコレクションがあったからか、彼の子息の一人はギター製作の道にすすみ活躍してます。
録音も数多いのでそれらも楽しめますが、彼の真骨頂はライブにあると思います。

ギターのネック製作④

今回はネックとヘッドの別の継ぎ方です。
普通の重ね継ぎより精度を出すのがやや難しいですが、ハウザーやロマニリョスなど著名なギター製作家が採用している方法です。
Vネックジョイントと呼ばれている継ぎ方で、ヘッドとネックをそれぞれオスとメスにV字加工します。

Vネックジョイント

まず同じ角度に切り出します。

このままだと設定した角度で繋ぐと隙間が空くので、製図して切り欠く部分を確認します。

調整後のVジョイント

調整後のVジョイント

一種の楔としての継ぎ方ですので、切り欠くときは上面のほうが大きくなるように調整します。
隙間無く重なったことを確認して接着します。
V字の部分が出っ張るので切り落として完成です。

Vネックジョイント完成

接着痕がV型に見えますね。

ハーディーガーディーのヘッド

ヘッドをギターのネック材のシダー(セドロ)とメイプルで作ります。
木ペグを使って調弦するので、シダーだけだと柔らかすぎて穴が広がってしまうため、メイプルで補強します。

ヘッドの荒削り

ヘッドの荒削り


鑿や畦引き鋸で成形していきます。
現代的なハーディーガーディーなので、モダンな感じでシンプルにデザインしました。
木ペグの入るところを下穴を開けておきます。
ヴァイオリンペグを使うのでφ5.5くらいのドリルです。
テーパーリーマ

ヴァイオリンのテーパーリーマです。


上の写真のようにテーパーリーマで少しずつ広げていきます。
刃物が斜めに入っていきやすいのでゆっくり垂直になるよう気をつけます。
ハーディーガーディーヘッド

ほぼ完成したヘッドです。

ハーディーガーディーの軸

ハーディーガーディーの軸(アクスルシャフト)の設計及び取り付けはボディ内部の中でもっとも気を使う作業です。
軸受けとして横方向の大型バーとエンドブロックにブッシュを埋め込みます。
軸は滑らかに動かなければ弦を安定して擦ることができないので、十分にアラインに注意してこれらを接着します。
少しでも軸受けに対して斜めにシャフトが入ると動きが固くなって使いづらいものになってしまいますので、軸を嵌めたままバーとエンドブロックを接着することでアライン出しをします。

アクスルシャフト

軸をあらかじめ入れて位置決めします。


私は軸はステンレスやブラスで作ります。
今の工房には旋盤がありませんので、図面を描いて機械加工屋さんに依頼しました。
木と金属の組み合わせですので、どちらかというと木材の部品に気をつけます。温度湿度による木材の伸び縮みによって過度に軸から力を受けない工夫など、木材になるべく負担のかからない設計を心がけます。
そのほかに、スラスト方向への移動を防ぐための部材がきしみ音を出すことがあるので、その辺もパーツを工夫します。

ギターのブリッジ

ギターのブリッジは将来修理がしやすいように膠(にかわ)で表面板に直接接着します。
ブリッジの飛びが怖いので、ここで使う膠はかなり強力なタイプを使い、強めの力でクランプします。
私のギターは表面板を球面形状に膨らませているので、ブリッジの下部接着面は球面に合わせるように削ります。
3次元形状を出すのはとても厄介ですので、時間をかけて少しずつ鑿や反鉋、羽虫鉋、スクレーパー、サンドペーパーを使い、合わせていきます。
ブリッジの材質はローズウッド、黒檀、ハカランダを主に使っています。
それぞれ、その中でもバネがあって比較的軽い品質の材が欲しいところです。
ブリッジは横向きのブレースの一種としても作用するので、昔ながらの設計で製作する場合は特に柔軟性が大事だと思います。
柔らかさを考慮して全体を少しずつ削りますが、完成したブリッジは大体いつも20グラム前後になります。

ハカランダブリッジ

ハカランダブリッジ製作途中

ギターのファンブレース

クラシックギターの製作で音質的に重要な場所はいくつもあり、それらが複合的に効果を出すと考えていますが、そのなかでも表面板の設計はすべての製作家にとって特別に重要と考えられています。
表面板の強度、柔軟性、質量、硬度をもとに厚さが決まりますが、そこに貼り付けるブレースがさらに音に特徴をもたらすようです。
クラシックギターの中でも伝統的に使われているタイプは、アントニオ・トーレスなどが採用している扇形配置です。
このタイプは表面板の下部の膨らみの設計のことで、空に舞う凧の骨組みのようにバランスよくブレースを配置します。

ファンブレース

ファンブレース(扇形配置)


この写真ではブレースの中央部分が一番高く、両サイドに向かってテーパーしてます。
全部同じ高さで、サイドの際だけ高さを下げるやり方(スキャロップ)もあります。
イメージですが、同じ材料で作った場合、前者はより重厚で伸びのある音、後者は反応が早く歯切れがよい音のように感じます。
ブレースの断面形状も角型、三角型、尖頭型があります。作者がどのように計画して設計しているかで変わってきます。
私の場合は角型で接着してから鉋で高さや断面形状を形成していきます。
バイオリン鉋

小さなバイオリン鉋や鑿で削ります。


ファンブレースで使用する木材の性質によって幅、高さをその都度変えて接着するので、決まった大きさではありません。
また私の場合、ファンの数も狙った音質によって5本の場合から9本ほどまで変えます。