月別アーカイブ: 2015年12月

ギターのネック①

わたしにとってネックはギター製作作業の中で一、二番目を争うくらい神経と労力を使う箇所です。
まさにネックですね。
材料はシダー材を主に使います。といっても表面板に使うシダーとは種類が違いますし、国産の杉とも違います。
ギター製作に使う材は外国産の木材が多く、翻訳途中で誤解を生むような表記になってそのまま定着してしまったものが多いようです。
表面板のほうはレッドシダーというヒノキの仲間です。
マホガニーは密度が程よいものはとても良いですが、わたしの設計だと少し重量オーバーなものが多いので使用頻度は少ないです。
シダーでも密度、柔らかさにばらつきがありますので、薄めのネックを希望された際は補強材を埋め込むこともあります。
補強材は欲しい重量によってカーボンや黒檀などを使います。
ネックのヘッドには横裏板と同じ材の薄板(ヘッドフェイス)を貼ることが多いです。自分の好みではありませんが、装飾のためツキ板をはさんで接着する事もあります。

肝心のサイズですが、目安として0フレットと12フレットでのネック幅、0フレットと9フレットでのネック厚さで表示します。
一般的に幅は0フレットで52mm、12フレットで62mmほど、厚さは0フレットで21~23mm、9フレットで22~25mmほどです。
ここはプレイヤーの好みでかなり変化させます。そのサイズはプレイヤーの手の大きさ、演奏スタイルでかなり変わってきます。
ネックの断面形状も平たいものが好きな方と丸みをもったものが好きな方と分かれるようです。
打ち合わせや製作途中に試奏してもらって決めることもあります。

ギターの横裏板①

クラシックギターではローズウッド系、メイプル系、サイプレス(シープレス)系が主に使われます。
単板で製作する場合、通常裏板(バック)と横板(サイド、リブ)は同じ種類の木が使われます。
設計によっては張り合わせて合板にする場合もあります。

ローズウッドはマメ科の植物で、代表的な使用材はインディアンローズウッド、ホンジュラスローズウッド、マダガスカルローズウッド、ハカランダ(ブラジリアンローズウッド)、アフリカンブラックウッドなどがあります。

メイプルはカエデ属の植物で、ヨーロピアンメイプル、ロックメイプルなどを使いますが、木目(杢)の取り方で呼ばれることもあります。フレイムメイプル、カーリーメイプルは柾目取り、バーズアイメイプル、キルティッドメイプルは板目取りです。

シープレスはイトスギ属で、私はスパニッシュシープレスと呼ばれるものしか知りません。カナディアンシープレスは種類が違うと聞いています。軽く、歯切れが良い音がしやすいので、主にフラメンコギターに使われますが、クラシックギターに使っても面白いです。

これら大まかに分けたそれぞれに木材として特性があり、また個体差もありますので、狙う音質に合わせて種類を選択したり厚さを変えて使います。

 

ギターの塗装

わたしの製作するギターはほとんどすべてセラック(シェラック)塗装です。
プレイヤーの要望でネックだけオイル塗装にすることはあります。
国産ギターでもスペインギターでも手工品で値段の高いものはだいたいセラックで塗装されています。
いわゆるフレンチポリッシュの技法ですが、製作家によって、また目指す音質によって使うセラックの種類や混ぜものを変化させます。
それらをアルコールに溶いて職人の手で少しずつ塗布するのですが、その前の段階で行う塗料の染込みを防ぐ工程、そして次の工程である目止めも軽石の粉などを使って天然素材だけで手作業で行いますので、たいへん時間がかかり、それが楽器の値段の高さにつながります。
しかしたいへん品の良い光沢を放つギターが仕上がります。

デメリットもあります。
水分に弱いので汗などふき取らずそのままにしたり、空気中の湿気が高いところに長期間置くと変質、変色したり割れてきたり塗装が剥げてしまったりします。
それでもたいへん薄い膜になるためギターの振動を妨げず音質的に有利なこと、塗膜をはがして修理が容易であることなど楽器としての利点がそれを上回って余りあると考えられます。
実際ポリウレタンやラッカー塗装の楽器は塗膜を剥がして修理、或いは再塗装するのはたいへんな労力が必要です。剥がした塗装の粉などを吸い込んでも有害ですし、その点でもセラックは天然素材で食品にも使われるほど安全性が高いものと言われていて作業も安心です。塗装の際アルコールが蒸発するのでそれを吸ってしまうのが少し心配ではありますが、今後もこの塗装を続けるつもりです。

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フラメンコギターの裏板塗装中

 

入門用のギターを選ぶ

ギターにはいろいろな種類があります。
初心者にはどれを選んだらよいかわからない方もいるかもしれません。
エレクトリックギター(いわゆるエレキですね)、アコースティックギター(アコギ)、セミアコースティックギター(セミアコ)、フォークギター、ガットギター(クラシックギター、フラメンコギター)、スチールギターなどなど…

まずは自分の弾きたい曲、やりたいジャンルによってギターを選びます。

さてその中で、もし既製品のクラシックギターやフラメンコギターを弾きたいと思った方は続きを読んでください。
もちろんはじめから良い音や弾きやすさを求めてオーダーメイドするのも良いかとは思いますし、本当は当工房の手工品をお勧めしたいのですが、続くかどうかわからないうちはあまり無理せず、ある程度自分の好みがわかってからのほうがオーダーしやすいかもしれません。

大きな楽器屋さんに行けばたくさんのエレキギターの片隅にほんの少しのクラシックギターがあると思います。その中から消極的選択をして選ぶことが多いのではないでしょうか。フラメンコギターにおいては存在すらしないかもしれません。しかしネット販売のお店でならいつでも選べますね。だから予算に合わせてポチッと購入しがちですね。

でもこれらいわゆるガットギターは生音で楽しむ楽器ですから、音質が自分のフィーリングに合っていないとつまらなくなってすぐに厭きてしまうかもしれません。なので既製品を購入される場合は試し弾きを強くお勧めします。しかも大量生産品とはいえ木でできているものですので、同じメーカーの同じ型番でも1本1本微妙に音が違うことが多いです。
クラシックギターやフラメンコギターだけを扱うギターショップが大きな街にはあると思いますので、少し億劫でも必ず足を運んでたくさんの中から選ぶと良いと思います。

クラシックギターの専門店は手工品ばかりで敷居が高いとお考えの方もいるかもしれませんが、私の経験上まったくそんなことはなかったです。専門店だけに、入門用の大量生産品のなかでも比較的程度の良いものしか扱わないお店が多いと思います。初めに初心者であることや予算を正直に告げて店員さんに一緒に選んでもらうと、満足いく買い物ができると思います。ついでに高級品の音も経験できるかもしれませんしね。
東京だとアウラさん、アンダンテさん、メディアカームさんなどが下町では有名店ですね。

ギターの表面板 ①

クラシックギターでもっとも使われている表板は各種スプルース、シダーです。
大雑把に情緒的に言うとスプルース系のギターは締まった音質、シダー系のギターは温かい音質と言えると思います。
スプルースはヨーロッパ系(ジャーマンスプルースと言われている材など)は繊維の縦横比が北米系と比べて小さいのが特徴です。
ギターの設計の段階でこれはたいへん重要なポイントになります。
最近(でもないが)流行りのダブルトップのギターは音の反射の関係で外側(表側)に使われている材の音質を持っているように感じます。
また、表板の裏側に接着する各種バーの配置や大きさ、木の種類によって表面板の振動のスピードや反応の大きさをコントロールします。
プレイヤーがどのような音を求めているのかによって、この辺のパラメータを変化させてギターを作っています。
また同じ種類の材料でも一つひとつ個性がありますが、主に比重、弾性、堅さで判断して、厚さ等を決めています。